2012年7月29日日曜日

なかぎり 自由律俳句 2012年2月1日~2012年7月29日分 まとめ


睨まれて 野良猫に詫び

夏枯れの枇杷の葉 ざわついて14時半

夕焼けを追いかけて 半月

夕立ちがくる前に踏切を渡ろう

それぞれの思惑あって 我はひとりで

暑気押し分けて千葉行総武線代々木着

潰されたカナブンの背中 虹色

振り向かない友人を 角曲がるまで見送る

夏の子三人路地に横並びの笑顔

もう一句詠んで帳尻を合わせたい夜

煎餅かじるとラジオが聴けない

日輪聴きながら 眼を閉じている母

病院待合 蝶つがいの汚れぼんやり眺める

枕元で聴かせる 先代馬生「親子酒」

雨に煙った向こうに 赤白のクレーン

clammbonで夜に溶け込む

陽射し強く 風柔らかく

寒さ罵るまで180日

雷鳴一雨 粗品ほどの量

母ひとしきり嘆いたあとの寝息すかすか

落ちる陰くっきり濃くて 2012年7月17日13時

暗闇に溶ける方法が知りたい

気高くも神聖でもなくて我が仏塔

それぞれがイメージする仏塔ありて 夏は来ぬ

季節わきまえぬウグイスがなく竹林

「メシを食いなよ おっ母さん」

「崩し字の母の覚え書き 読みつつ整理」

「呟かない人を いつの間にか案ずる」

「切らぬ梅の枝 ヒュンヒュン」

「母のメモ 「玉ねぎだけの小さなオムライス 幸せ」」

胸騒ぎする赤黒い夜空

母の寝息に 耳すます午後

アゲハ 二匹のフォバリング

手土産のビール 自ら真っ先に飲む

鼻のしたに汗溜めた 友人来たる

親子連れの入道雲 立ち上がる

尊ぶは 月 星 友がら むかしの女

七夕を想う余裕がなくて

梅雨空の下 オレという名のクソッタレ

虚ろにきゅうり噛む母 パキリ ジャクジャク

力士の様な女 ただ一心に前を見て進む

夏物のスーツ ぺらぺら頼りない

思い出を作っているのだ 足をさする

母 不安気に 往診の意味を尋ねる

時間作って 秒針の音 数える

視線の先に タバコの空き箱 ひとつ

笑う猫に会いたくなる 夜

夜になって 月がしぼんだ

みたらし三つ分だけの 今日までの恩返し

なにも見ていない眼を見る

潮風に黙って吹かれる母が居る

敬語を使う母の気弱を叱る

赤ちゃんの脚 西日の中でなお生白く

木漏れ日 そよ風 そこに居るオレ (なにこれ?)

ひとしきり 鳥どもの営みを眺めて 立ち去る

鴨おっとりと 燕せわしなく

鴉どもの罵り合いを聞く池の端

燕の白い腹が 見えた瞬間

天然色で白黒写真見てる 老母

細切れの記憶を語る母に脈絡は不要

どの子の名前つぶやいてみようか 帰り道ぽつり

整然とならぶ光ばかりが疎ましくて

出せば出したで後悔する便り

秒針の音 畳の目に染み込む

あの時の別れ道に 今更気づく

あの子の細い声を思い出す夜

紫陽花の色がぼやける夕暮れ

初めて母の髪を梳った日

無駄に声の通る人がいる車両

親鴨 取舵 仔鴨 宜候

湖見つめながら ホームレス一服

声ばかりの雲雀にからかわれて渡る橋

発泡酒でもビールでも 同じ

池もに灯りが写り出したから 帰ろう

初夏の雀はスマート

燕の輪郭くっきりと 曇り空

水草群れて 静か

歩きながら 眠たくなった

不人情を極めて 猫の命日を忘れる

昨日命日だった猫を想う

雨の日に 老いゆく母が居る

久しぶりに出来た 魚の目

抱き起こした老母 我が子の様だった

太宰好きな子に 愛想つかせれる生き方

あの子がぽちぽち食べていた 松の実

彼がダメなら オレはどうすりゃ

恥多くても たまにいい事があるから厄介

ドタ靴みてえな車だな コンビニ駐車場

夜烏が アウアウと啼きやがる あの辺り

怒り こみ上げるほどの寒い車両

日陰が愛しい季節が来てた

じきコウモリがヒラつく 池の上

寝タバコで死んだ人の噂聞こえる 池のベンチ

カモ カモと 池の鴨呼ぶ 女の子ひとり

空 写生する女 池越しに眺めて

もう一匹 魚が跳ねたら帰ろう 夕暮れ前の河口

穏やかな曲など クソくらえと思う夜を歩く

スピカは青 若き日の残滓と勲章と

咲き遅れのツツジ一輪 小雨のなかで

句を詠む意味を 考える

怒りとか 哀しみとかを踏み抜くのに もうひと落ち

「座れる席まばらに 22時半」

子供等を 見守る公園の大樹が眠っている

公園の灯りに向う 坂を降りる

朝見ても 夜見ても暗い排水溝の奥

まばらに座れる席 22時半

私鉄駅中心に広がる 営みの灯り

空の青黒く 立木のさらに青黒く

「日々に死ね」とは 笑わせやがる

必要とされている自分 必要とされていない自分

人々の営みから 離れる

目を閉じて 雨宿りする猫どもを 思いやる

雨音聴くだけの時間 無駄と思う 不遜

シュワシュピリピリ あいつどうしているだろう

髪を刈ると 耳が風を切る

空 蹴り上げるように干されてる ズック

この空から雨が降るという 不思議

休日の朝を終わりの始まりと感じる不健全さ

街並みを見下ろしもせず 空も見上げずに 黙念と

いつの日も 誠実に立つ 高圧線鉄塔たち

名も顔も知らない奴らが つながって 夜が更けて

この一杯が 明日の朝を重くするのだが

濃淡の雲を通しても 月光

ホーム待合室の灯り 白々として

むっつりと座り込んでても 電車は夜をつっ走る

手放してしまった ヴィヨンの妻になれた人

塩ジャケの 腹の部分は朝飯の菜

「女のいない国に行ってみてぇ」と 言ってみてぇ

トウモロコシ 甘くなって 初夏

あの子 捨てたのか捨てられたのか 忘れた

遺すもの紡ぐもの 言葉ではなく 私自身の生

朧な雲の向こうには 月蝕があるのだから

月の輪郭がボヤけて 日曜20時

板塀の隙間から 生活がのぞく

その昔 子にゲンコくれた公園で苦笑い

港のはずれで 足裏を潮風にさらす

薮っ蚊の柱 突っ切って 公園

散歩する老犬は 斜めに歩いてる

アテがなさ過ぎて 途方に暮れる分かれ道

黒雲は まだ遠い空 ぐいぐい歩く

子ども等が 泣いて笑って まだ陽が高い

噴水の 水ちょろちょろと 申しわけ程度

腹に響く花火高々と 開港記念日

街々を 通り越して見る花火 遠く近く

急行の止まらぬ駅にある 人のいとなみ

竹笹の場所ばかりが あかるい緑で

三色の花 段々と丹精込めて

少し酔って 娘のアパート急襲して 不在

竹は竹として 誠実に伸び上がり

黄色い花が ゆれていました

手の届かないところに 桃色の花

薄曇り 微風 蔵のある家 風車

マンションのへりに居るカラス 大きく

公園でビールあおって見つける給水タンク

現世でいちばん 柔らかな場所は 土中

植込みの陰に 反吐ひと口分

緩く湾曲したホーム ゆっくり歩く金曜の夜

ハイロウズ「青春」聴きながら 知らない人ばかりの車両

側溝に 気早く死んだアゲハ 羽八分開いて

今晩飲む酒は 苦し辛し

ひとかかえの雲 ぽっかりと 身じろぎをする

いろいろな事 去来して なにひとつ残らず

芥子粒ほどの虫 床を這って 止まって 思案

耳元の甲本ヒロトに代弁させて 地下鉄で突っ走る

生白い脚にょきにょきと 初夏の車両

私とは 無縁な紫 シバザクラに陽射し

自分の亡骸を抱くように 眠る

すぐ明ける夜を 性懲りもなく 眠る

煙草の煙に なりたい自分 唾棄すべし

今日も生き抜いた 母が居て 我が家

抱き上げたい 遠い我が子の声 耳元に

不真面目に 真面目練りこんで 毎日

花鳥風月では 埋められない穴 ひとつ

今日は何が起きるか 窓に映る自分に聴く

「遠い日の 振り子の振幅 思い出して」

ないがしろにした春が 去り際に不意討ち

いじましく手酌でつぎ足す 明日は明日の事

「ご縁日 母に尋ねた 水中花」

水中花 幼い頃の夏夜店

同じ風 松はのそりと 柳ゆらゆらと

プリプリと進む水鳥の波紋 広がって

西陽受けて 池のさざ波 網の目模様

メダカも飼えぬ 自分がいて 夕暮れ前

風 押し出して 地下ホームに各駅停車

雪駄引きずって 紫の花の前

水中花 幼い頃の夏夜店

夏の日の無惨 溶け始めた水中花

「いつものご挨拶」 老母 公園の木を撫でて

ジャスミン あっという間に 無惨

もう少し歩くと 重苦しい家

地下鉄の排水溝だけ見ていた 20才の夜

不義理した人の駅 目を伏せて 気づかぬ振り

心など 軽くなるモノか 夏のはじめ

陰影のマダラを進み 地下鉄乗り入れ

寝ぼけたまま 夏空に出くわす

どの曲も そぐわない 夜道

思い出す事 薄曇りの夜に 投擲

ちぎり捨てる気持ちの 捨て場所を また探して

ありがとうに 積上げた意味 届け

どんな夢が 見られる夜か

さまざまな音 聴こえて 明日は雨

煙草 根もとまで吸う 日曜夜の悪あがき

石段に はみ出す松の幹をくぐって

始めての階段を登ってみる 夕暮れ

血圧測定 母の手首の 細く冷たく

ベランダで飼われている犬 右往左往

ジャスミンの香りにむせる 路地裏

この身のダルさは 夏の前触れ

重すぎる思い出を 捨てられずに 喘ぐ

昼寝をした日 夏の日

清らかな空気の中の 苦い現実

なぞった眉毛を 忘れよう 忘れまい

あの街も 寒い空気が満ちてるのか

冷たい夏の初めに お便りがくる

歯を食いしばって 送信しないメール

消息を聞いて 痛ましく 懐かしく

路地に転がる 青梅 点々

沼に沈んだような月 眺めて

朝と夜にしか 詠めない 生活

すげぇ難しそうな議論を 傍観

蛇口センサーに 無視される口惜しさ

助けて欲しい朝ばかり 来る

今宵 もてはやされぬ月に 語る

欠けはじめた月が 優しい

憂うつから 少し許された顔ばかりの地下鉄

夜の女王は月 おそらくは薄い唇

冷たい視線の月が ゆっくりと巡る

竹内浩三さんに葉書出したい この豊かさと貧さ

葬られぬ春を 踏み抜いて 夏

老いた春を 見殺しにして 夏を詠む

来る夏に気を取られて 月を忘れて

遠く橙色が横たわる 多摩川を渡る

この路地も 夏へと続く

残量17%の感性 初夏の西陽で補う

迂闊にも スーパーのビワで夏の近さを知る

軒打つ雨音の 潔さ

真っ白い ツツジ背にして 古老達が酔って笑う

八百万の神の裳裾 はためく様な 空

暗い公園 ハナミズキの白 ぷかぷか浮かんで

呑むには心細いポッケを探って 夕暮れ前の空

手首の脈動 気味悪く眺めて 春の夜

「あぁ いつか見た あの空と同じ」

「酔って詠んで台無し」

気伏せりは なまじしとしと降る雨にせい

いずれいつか死ぬ母が 寝床に向う 俺もまた

呑んでも なにも湧かず また呑んで オレは

苦や業を満杯にして 雨中を行く車両

思惑ばかりの街角から スカリとした空を見上げて

曲の合間 傘鳴らす雨音も間奏

春物のスカジャン 冬物のスカジャンに戻すバカひとり

冷たい風の路地で 間合い取る黒猫二匹

葉桜の味わいがわかってから 久しい

身の丈より 長い影を追って だらだら歩く

老母の忘れ物は 昔語りの備忘メモ

亡父譲りの 猫背で歩く 雲の下

あの垂れた雲の上にある 月の事を 想う

今読めるのは 柔らかな本だけ 棘の刺さった春の朝

戸部本町の静かな道に 鳩の惨殺体 ひとつ

月のない窓に 今日の終わりの 一本を吐く

月の見えない窓辺に 今日最後の一本を 吐き出す

暗雲を ズポリと抜けて 銀の月を見る

いずれご破算になるまでの ひとつの夜を眠る

寝床で読む 「単純幸福論」の変わらぬ優しさ

あの子の顎の線に似た いずれ満ちる月

老母の忘れ物は 昔語りの備忘メモ

暴れだすを聴きながら 夜道 「あぁ 神様 俺は」

「明日の事は知らん」 明日がすぐ来るのを知りながら うそぶく

身の丈より 長い影を追って だらだら歩く

我が死因は いずれになるかと ひっそり想う

酒なめながら 杜甫を読む 寒の戻り

生暖かい夜 久しぶりの酒を 少々

春嵐よ来い 次の季節への通過儀礼

母が 日向を向いて かき餅を食う

「百頭女」 あの子にあげたの忘れて探す

「諦めろ 朝だ」と 鴉 嘲笑う

ユキヤナギ ふつふつと泡立つ 三月の終り

欲しいのは ブコウスキーの血 数滴

俯いて歩く 喪服三人

本堂の甍越しに 立ちあがる青空

この不甲斐なさを 笑える日がくる

縫合5カ所 そりゃ痛いはず

質屋倉脇の紅梅 見飽きてたはずが もう満開

あの月を 見てから もう4年

水田に映る空 海に見たてたあの子は元気でいるか

微風によろけて苦笑 リハビリ散歩

思い出のは遠い時間ばかり

あのテールライト見送った 午後7時で真っ暗になる 街

夜の地方スーパー ひと気のないフロアの白々しい思い出

春の布団が 冷たい

墓所は 亡き者との待合せ場所

陽が落ちると 冷たい白の障子

ブロック塀の片隅 鴉の羽 一本

ノラ猫がチーズを怠惰に噛む

空どよもして 鴉 頭上を過ぎる

紅梅 枝を空に伸び上げて

リハビリだから 遠回りして あの路地

リハビリ散歩で行き当たる 紅白の梅 スズナリ

軽やかな 眠りの毛布が降りてくる 23時

焦りと諦めを小脇に抱えて 寝る

若いユキヤナギの枝 風にヒュとしなって

我が家とは こんな感じだったか 安心と厄介

動き過ぎて 少し出血

病棟に比べて 自宅の構造のなんと複雑な事か

この夜景も見納めだと思うと

カーテン越しに 街の灯りのコラージュ

春の雨 とふとふ 遠いビルが霞む

この雨を受けるつもりか 質屋倉脇の紅梅 五分咲きに

ぬくぬくと していそうな 雨の日の小動物の寝ぐら

クシャミして またまた のたうつ

見飽きた窓外 雨です しばらく眺めよう

窓のそばが ひゃっこい 雨だ

気が付けば 病室最古参

薬が効いてきた予感 文字と共に眠ろう

夏に読んだサガン 暑苦しくて

帰ったら観よう 「ジョゼと虎と魚たち」

シーツ交換 窓開けられたら 鴉の声しきりと

クシャミして のたうつ

面会予定なし 寝ようか 読もうか 痛がろうか

置き去りにされたように まだ付けているストラップ

夜明け時が いちばん寒い

質屋倉脇 フリカケの様に 三分咲きの紅梅

アスファルトついばむ鳥は 何を食うのか

縫い傷 引っ釣れて 忌々しくて

寝そびれて またビルの赤色灯の点滅を見る

ポツポツと 今日を終えるマンションの窓を眺めて

消灯放送 頓服を飲む21時

入院手引きに「社会復帰」の文字見て苦笑 暗たん

清潔 親切な病棟に 健康だけなし

検温 鈍痛 明日を思う事もなし

死んだ鳩を突つく鴉を見る 業はどちらに在るか (※)

出たら あの辺りで呑もう 窓越しの屋並み

病室の窓 下から上へかすめ飛ぶ 雀二羽

健やかなる者を 蝕む者としての 私

病棟 消灯 シンとして 寝息

カーテンで区切られただけの 我が家でひとり

あの子を重ねて見てる 要領の悪い看護助手

布団干す 陽の柔らかさ 千切れ雲

「寂寥」という字面 身に染みて さみしい

巻き付いた旗 身悶える 3月晴天午前11時

朝日浴びたビル 清潔 窓の向こう

吸ってすぐ後悔 丸3日ぶりの1本

病棟 ヒソヒソと 目覚めはじめる 午前5時50分

病床で聴く ラジオ深夜便のあまりにも似つかわしく

幼い日の語りのような ひらがなだけの老母からのメール

ゴソゴソと ひとごとじみた 部分麻酔

約束の場所 始めからなかったなんて 思いたくない

雄々しく未来が詠めぬものかと 苦笑い

なぞった眉の曲線 思い出す時があり 振り払う

あのね と言われた日 その先を聞けずに 5年

時刻時刻で 腹がへる 面白さ 哀しさ

ワイパーの音 ハンドル掴む横顔 硬くて侘しげで

マンホールの穴すべてから 指一本づつニュルっと (※)

あの街も 気温7度か 雨空か

消防団倉庫の赤灯 熟れた鬼灯

突き当りの廃屋から 異臭と手招き (※)

あの夜の神楽坂 霧雨でございました

思い出は 塗装の剥げた 積み木

体育倉庫 落武者 呵々大笑 (※)

泣いた日 笑った日 どちらが多いか

亡父ゆずりの猫背で歩く 雲のした

雷鳴の明け方に 死んだ猫が帰る (※)

月の満ち欠け 忘れるほどに自分を置き去り

月の満ち欠けも忘れるほどに 自分を置き去り

振り向いた顔が 狐 (※)

自分を置き去りにして 月の満ち欠けも忘れる

死んだ人ばかりの映画を観る アヴェ・マリア

びしょぬれで 過ごした一日

疎ましい毎日も 笑える時が どうぞどうぞ来ますように

疎ましい今日を笑える時が どうぞ来ますように

こころなし線香の香り 雨の都電荒川線

曇り空から夕暮れの変わり目 伏し目がちに 歩く

待つ人まばら 日曜午後のホーム 物憂げ

揺れる頭で雲上の月を思う キミはどうしてる 午前1時半

逃げ込んだ土蔵にも 市松人形 (※)

しかめ面で 譜面読む人 地下鉄座席

整った顔立ちの子が待つ 丸ノ内線東高円寺

ちいちゃいお婆ちゃんが トコトコ歩く 春はもうすぐ

屋並み睨みつけるように立つ ドア前の女

箱庭にしたいような街並みと 心と

私鉄沿線 もっさりと雲塊いくつも

酒を飲むのは楽しいか 死んだオヤジが皮肉に笑う (※)

モウ疲れましたと 夜空につぶやく

薮掻き分けて 山駆け下りる大女と目が合い 観念 (※)

酒 酒と 氷雨を浴びて歩く愚か者

なけなしの感性 封じ込めて 過ごした一日をオシマイにする

「くぐった修羅場の数が足りない」 そう思うけど、モウたくさんで御座います

広げた風呂敷で 何を包むか いっそ包まぬままが潔いか

何度も同じ駅にたどり着く 深夜の私鉄線路を 歩き続ける (※)

病院待合 国会中継 無音の茶番をぼんやり眺めて

わらじ編んだら しあわせになれるか

裏道を選んで歩いて 迷う

駄句 二千も吐けば 自分を消せるか

夜の不穏を思う スニーカー片方 朝の路地裏

棘が抜けて やっと穏やかに聴ける おおたか静流

「生まれ変わるなら無頼」 力んで笑う 半ヨゴレ

なんと詠んでも しっくりこない 一日

ほほ火照らせて歩いた 夜の浅草 伝法院通り

泣きながら ガード下の壁にもたれたのは もう14年前

「音楽が足りない」 そう思うのは 二度目

地下鉄出口 白濁の街も人も

何もない自分に 息を吹き込み膨らます帰り道

思い出す事 吐き出して 今は空っぽ

咲きかけの紅梅に 積もる雪は 小憎らしい

もう寝よう ひどい一日を終わらせるために もう寝てしまおう それで終わるなら

信仰心などカケラもなくても 合掌 亡くしたもの達の顔を思い浮かべて

大船観音 参道脇の竹林が鳴る

観音胎内 鐘の余韻消えるまで 合掌

枯れ枝越しの 観音の頬 ふっくら

連結器ガチャガチャ 行き先など心細いもの

何処にも行けないのではない 行ってみましょうと 小さく 跳ぶ

なじられる程の酒量ではなし こんなに寒い夜なのだからだから

寒風 首を切り裂く ノラよ 寝床は温かいか

「カーテンがめくれて 梅のつぼみが見えた」

「カーテンがめくれたら 紅梅のつぼみホロホロ」#自由律俳句

捨てにもいけない思い出す事 鬼怒川 隅田川

気がつけば 山手線ぐるり 鬼門筋ばかり 思い出すばかり

やる事を 次々すべて口にする隣席の女 (※)

「高田馬場で逢いましょう」 約束した女の唇の薄さ 冷たさ

「あの子だれ」 幼子が指差す奥座敷 (※)

屋根裏からの囁き 語り合う首 二つ (※)

カーテンがめくれて 梅のつぼみが見えた

そしてまた 野毛で呑み 黒猫は喰う

また 黄金町から

山中廃寺 見る人のない鬼火 三つ (※)

絵が描ければ 楽器が出来れば 寂しくなければ

「惜別」とは 整理がつかない宙ぶらりん

北関東の広い空の 曇ったり晴れたりを 見上げているか

あの時吐いた白い息二人分 今どの辺か

ウメが先か オレが先か なにを競うか

「メメント モリ」と哭く鳥たちに囲まれて (※)

もう酒が呑みたい やりたいことが出来ない しない

廃屋の天袋 ヒトがいるわけないと思いたいが (※)

「ストッキングには凝るの」 つぶやかれた アメ横ガード下

水滴で曇った窓の向こうの顔 薄笑い (※)

自堕落とズボラと無頼を言い訳にして フテ寝

寝返りを打つ亡骸を 固まって見る通夜の守 (※)

黙念と待つ 当駅始発

アタマがにごりきっていて もうイケマセン

太宰がくれたモノ 奪ったものモノ 少しづつ

壁につぶやき続ける女 終電あとのホーム (※)

自責自責で季節すら見失う

徐行する通過列車の車窓に 亡くした友の顔 ぼんやり (※)

しぼり出しても 何もない一日

失ったもの あの言葉とあの声

誰が手を引く 独り寝の布団 (※)

「出たばかりのトイレの戸を引いて閉める手が 細い」 (※)

酒量増しても埋まらない 喪失の時期

今日などは 風呂の意味がしみじみわかる

見晴らしのいい場所で、日が沈む

轢死のあった踏切を渡る、夕暮れ前。

追い風が冷たすぎて 冬を心底憎悪

酔って 雨と雪と

幸せは 布団の中で聴く雨音

純米酒トロリ 思い出す事チクリ

「膝の仕掛けがオカシクなった」と老母がつぶやく

冬の雨の悪意 相手にせずズンズン歩こう

また酒 オシマイへの速度を 加速

月 雲 煙草 昔の女

酔って 月を見る

老いた母が履く スニーカー

言葉の意味を 言葉で考える 午前0時

生きていればいいことが 実感した九段下の夜が遠い

整骨院で聞く カーテン越しの世間話

指押し込む整体師の声 快活

雲と暮れなずみの隙間にオリオン

母が縮んで老婆

二月にはきっと厄災 くだらない思い

自由律という 心地よい束縛

「行きましょう」と手を引かれて戸惑う 夢

ヒトの言葉 好き嫌い

寝入る前の幸福の意味

野毛の猫も 逃げる

立ち飲み屋のホッピーに浮かぶ薄氷 ひとり

裏道ばかり歩く あいつを思い出す

ブルーハーツを聴きながら歩く 黄金町から日の出町

満天に星 まぶたのケイレン

 ※印は#オカルト自由律俳句

自由律俳句のタグがついたものを、ざっくりまとめてみました。
もしかしたら、誰かの返歌が混じっている場合や、ダブりがあるかもしれませんが、気が付かれたらご指摘ください。
476句、約2時間ぐらいの作業量でした。日付を削除してしまったのは、失敗だったかもしれませんね。
まぁ、こんな感じで、会員の皆様のものもまとめていきますね。
これから、改めて自分の句の変遷をたどってみたいと思います。
また、会員の皆様からの忌憚ないご意見をぜひぜひいただきたいと思います。

どうか、よろしくお願いいたします。

一行怪談(吉田悠軌著 津川智宏画)を読んで


「愛おしい団欒がある 廃屋の屋根裏」(吉田悠軌著 一行怪談 P25 を読んで)

「葬列に 取り囲まれて 懐かしい風」(吉田悠軌著 一行怪談 P32を読んで)

「そのわけ語る母の顔 能面」(吉田悠軌著 一行怪談 P18を読んで)

「神籤に 見透かされている 私」(吉田悠軌著 一行怪談 P62 を読んで)

「いっそすべてを 見抜かれたいほどの 月光」(吉田悠軌著 一行怪談 P56を読んで)

「我が子 愛おしくて 我が子 美味しくて」(吉田悠軌著 津川智宏画 一行怪談 P53挿絵 を見て)

「夏の前には またあの女を消す」(吉田悠軌著 一行怪談 P20 を読んで)

「あれが あの女達の 『お帰りなさい』」(吉田悠軌著 津川智宏画 一行怪談 P43挿絵を見て)

「まるくまるい 祖母は あの時のまま」(吉田悠軌著 津川智宏画 一行怪談 P33挿絵 を見て)

「亡くした子に会うには 海と空ともうひとつ」(吉田悠軌著 一行怪談 P36 を読んで)

「亡くした友の 往くへを想う この季節」 (吉田悠軌著 一行怪談 P42 を読んで)

「魅せられた踏切に背を向けて 夜明け」 (吉田悠軌著 一行怪談 P9 を読んで)

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「夢を見た」シリーズの今までの分まとめ


2012年07月23日(月)
携帯が鳴り、連絡の途絶えた女の声が明るく私の名を呼んだ。
直後にその女と寝ていた。
いつの間にかその女は、会わなくなって久しい女に変わって別の旅館を探していた。
ひと部屋取れた。
また彼女が払いをした。
部屋にはまだ先客が居座っていた。
私は早く二人で話したかったのでイラついた。

2012年06月13日(水)
夕方、母の携帯から道に迷ったという連絡が入る。
場所を確認すると、ほど近くはあるが面倒な場所のIC付近にいる。
タクシーで帰るらしい。
私の脇で、妙にいけ好かない男があれこれ私に助言する。
私はそれよりも帰った後の母が思う、老いたという落胆ばかりを気にかけている。

2012年04月25日(水)
からりと襖を開けると、去年の秋口に死んだ先輩が菓子折を手に立っていた。
私が最初に入った会社で最初に仕事を教えてくれた人だが、悪い酒ばかりで何度も不快に思い、彼も私を疎んじていた。
しかし、そこに立つ彼はシラフで機嫌の良いまろやかな笑顔を私に向けていた。

2012年04月22日(日)
死んだ猫を追って畳に潜ると、嵐の後の酒場ばかりの街角に降り立った。
夜がどれ程の深さかはわからないが、誰一人いない。
嵐の名残の風には粘りがあり、行灯が倒れ、千切れたポスターが散らばる路面は濡れている。
店は一軒も開いていなかった。
私に行くアテはない。

2012年04月18日(水)
宿に泊まった。
妻と娘と友人と、そして私がひどく不人情な扱いをした女がいた。
彼女は低い声で娘と家具のカタログを見つつ、私もこんな嫁入り道具が欲しかったわと呟き、私の名を呼んだ。
私は二人に背を向け聞こえぬふりをした。
私はやはり不人情な上に卑怯でもあった。

2012年04月17日(火)
『一番綺麗な私を抱いたのは・・・』と同じフレーズだけが頭の中で響き続けてていた。
俺は同年輩の男達と閑散とした車道をひたすらユックリと走り続けていた。
やがてビルに囲まれた広い十字路に行き着いた。
皆楽しそうだったが俺一人気後れがしてスルスルと路地に身を隠した。

2012年04月09日(月)
休日の午前中。
少し縮尺がつまった自宅の一階の洗面に向う途中、随分前に死んだはずの父がいてお互い身をはすかいにしてすれ違う。
父は毒気の抜けた様な、妙に小ざっぱりした顔つきで「おぅ」と言う。
俺も「どうしたのさ。死んだんだろ」と聞く。
父は優しく微笑みかけた。 

2012年04月08日(日)
俺は、昔、従弟が住んでいた団地の押入れに隠れて怯えてた。
積み重なった布団の上と天井とのわずかな空間に身を横たえて、汗まみれで悔やみ続けていた。
ひとを殺めてしまった。
死体は山中に埋めていたがそれはどこだったか。
もっと深く穴を掘るべきだった。
朝にはバレる。

2012年04月06日(金)
いきさつのあった女が俺の布団の上に屈み込んで右手を引いて「行きましょう」と当時のままの優しげな声で言いつのった。
俺は女の手が小振りなのに気づいた。
それは別口のいきさつの女の手なので当惑し、生返事をしたがそれでも半身を起こした。
何処に行くのかは、知らない。

2012年04月06日(金)
高曇りの空の下、河口に近い身の丈程の護岸壁に沿って歩いていた。
目の前に上下二段の首都高らしいモノが見える。
目に入るのは灰色だらけでどうにも気が荒む。
左手に貧弱な作りのこれも色のない平屋の群れが見えてきた。
誰一人とも行き交わない。
改めて深々と侘しくなった。

2012年04月06日(金)
深い森に覆われた岬の廃洋館の二階からは穏やかな海が見えた。
床に散ったガラス片をジャリっと踏んだ。
若い女が階段をギシギシ鳴らして登って来た。
突風で木々がごぉと騒いだ。
階段を登りきり、女が顔をあげた。
その顔は猫だった。
俺は叫び声をあげたが、その女を受け入れた。

2012年04月05日(木)
目を覚ますと、幾重にも折り重なった緑濃い深山にある送電線の鉄塔の根元にいた。
月明りが凄く、銀灰色の金網や鉄塔を鈍くと照らしていた。
遠くにチラリと街の灯りらしきものが見えた。
あそこに辿り着けるのかと思うと、むやみと心細くなって立ち尽くした。
フっと月が陰った。

2012年7月24日火曜日

夕日


 遠くからあなたの声が聞こえる。

 大きい声だからすぐわかる。
 「俺さ、あの公園で夕日見るのが好きなんだよね。すっげえきれいでさ、ずっと見てたらなんか明日も頑張ろうって気になるんだよね」
 ・・・そうなんだ、夕焼け好きなんだ。
 ずっとあなたの背中しか見てなくて、そんなこと知らなかった。

 仕事が終わってからその公園に行ったら会える気がして、こっそり一人で行ってみたけど、あなたはいなかった。

 寝っ転がって夕日を見ているかもしれないってちょっと期待していたのだけれど。

 もし、私が夕日になったら、少しは私のこと見てくれるかなって思ったけど、そんなの無理だよね。
 声すらかけられないような私があなたと一緒にいるなんて想像できない。

 夕日がうるんでもう何も見えなくなった。
 ただ私は夕日になってあなたに振り向いてもらいたい、見て欲しいだけなのに。

 それすらできない。自分の弱さが情けなかった。

 「夕日になれたらあなたは振り向いてくれるだろうか」

                                  By おろれっく(なかぎり代理投稿)

2012年7月22日日曜日

【自由律な会「ア・ぽろん」について】 会則とか

何となくその気になって、自由律な会「ア・ぽろん」というのをやります。
会則① 自由律っぽいものが好きなら誰でも入会できます。俳句でも短歌でも絵でも詩でも音楽でも写真でも造形でも何でもいいです
会則② 人が嫌がる事をしてはダメです
会則③ 人に優しくしなくてはダメです
会則④ みんな仲良くしなくてはダメです
会則⑤ 入退会は自由です(この部分改訂)

ハッシュタグは#アぽろんでお願いします。
あ。入会も退会も無料です。お金はたくさんあるので要りません。実家が大金持ちなのです(ウソ)。

2012年2月26日

2012年7月10日火曜日

『人間失格』読後感


 ボクは、ダムというものを世にもおそろしい造形物だと思い込んでいる。

 谷あいで水を塞き止めているあのコンクリートのダムのことだ。

 ほど小さいダムでも、むやみと怖ろしい。

 ダムの上辺は、たいがい歩道になっている。

 たとえば、そこから眺める左手には満々と水が蓄えられていて、それを歩道の手すり越しに覗き込むのもそれなりに怖ろしい。
 水面までの距離が存外遠く、そしてその不吉な水の色あいから想像できる水底までの距離もさらに遠い。

 だが本当に怖ろしいのは、その反対側の右手にある壁面なのだ。

 ダムの水をたたえていない側の壁面ほど怖ろしい建造物は、そうあるものではない。

 この壁がいっそ垂直ならば、さほどの怖ろしさは感じない。
 それは単に高所に対する恐怖のみで、いさぎよく落ちてしまえばそれっきりのもの。
 そう思える建造物や自然の造詣は他にいくらでもある。

 だがダムの場合、上から覗き込むとある一定の距離までは垂直に近いのだが、そこから下がいけない。
 わずかずつ、気づかない程度に曲線を描いて、下に行けばいくほどその曲線がしゃくれている。
 かといって地面に接するまでに平坦になって帳尻が合うわけでもなく、まことにキリの悪いところで曲線のまま終わっている。

 これが実によろしくない。

 この壁の中ほどの、わずかに曲線がつき始め、かろうじて滑り降りない程度の辺りに自分が立ちすくんでいるところを想像するともういけない。
 滑り落ちるのを必死にこらえ、両手を壁に押し付け、つま先に全神経と体重を預けながら身じろぎも出来ずに脂汗を流している自分を想像してしまう。

 なまじ何とかなりそうなところが、より一層怖ろしい。
 何とかしている最中に何かの拍子にバランスが崩れれば、もう体中をコンクリートにいたぶられ続けながら滑落していくしかないのである。

 「人間失格」は、この感覚に満ち満ちていている。

 ダムの中ほどに某然と立つ太宰は紛れもなくボクの身代りで、その哀れな身代わりがジクリジクリと身をズラしながらどこに向かっているのかはわからないが、とにかくその場から移動しようとしている情景が浮かび上がり、傍目にもやるせなくってどうしたモノやら途方に暮れる。

 頑張れ、の掛け声も意味はなく、何しろどこに向かっているのかがわからない限り手の施しようもない。

 この「人間失格」のあとに執筆した「グット・バイ」が未完のままの遺作だと聞く。
 こちらにも触れる機会があったが「人間失格」に見る底意地が悪いとすら言える“ヒトいじり”の余韻を感じるものの、軽妙な内容を比較するとまるで太宰は失ったバランスを取り戻そうと苦闘しているようで、ただもう痛ましい。

 もし仮に、世に言われるように「人間失格」が太宰の自叙伝的な性質のものであったとしたところで、どうしてああも自分をバラバラにしなくてはならなかったのか。

 こうまでして自分を深堀りをする必要が太宰にはあったのだろうか。

 しかも、鋭利な刃物でスパリスパリとコレは腎臓、コレは気管支、コレは十二指腸といった具合に、ある種爽快に手際良く自らを献体としてその臓物のありかと形状を陳列してくれるのならたとえそれが血まみれであろうがいっそ諦めというか、気持ちの落としどころがある。
 が、これはもう本来的に切り裂く道具ではないもの、例えば鉛筆やフォークやシャベルのようなもので、えぐり取るような塩梅でその取り出されたモノ自体もキミの悪い色合いだけでかろうじて臓器である事がわかるものの型崩れがはげしく、その不気味さがなんともやりきれない。

 最後に、取って付けたように「いち狂人の手記」にしているところがなおさら哀れで、その手記を手に入れる作者はすこぶる健やかで、家族の為に身を動かしているものとしているところが、また物悲しくさえある。

 これを書いてしまったあとは、その先もう書くものがなくなってしまったのではないか。

 太宰は、いやはやこれからどうしたものやらと例のポーズで机に片肘をつき、なにに視線を向けているのか視力を眼球のなかにとどめているような顔つきで茫然としたのではないか。

 我が身を晒すにしても『桜桃』のように複数人の苦悩が交錯するものの中でいたずらに自分をおとしめるのみにならないものの方が、よろしい。

 凄惨な自己解体のテイのこの一作は、どうやらボクの中途半端な自分イジメ、あるいは自分ギライへの戒めであると受け止めるよりほか、今は取り扱うすべがない。

 ボクと太宰との違いは、その才能だけではなかった。

 まず、ここまでテッテイテキな自己解体の根気を身につけなかった事を親に感謝し、自分の愚物ぶりに感謝したい。

 そして最後に、ここは重要なところ。

 冗談ごとではなく、何より決定的に大きな違いは
 『ボクは彼のように、女にもてない』

                                               某年.某月.某日 某所にて



 以上の一文は、ある時期、太宰をこよなく愛する一女性に勧められて読んだ『人間失格』の読後感をその女性に贈ったもの。
 その女性については、ここでは触れる必要がないので省くが、恥ずかしながら、それまでの長い年月、僕はほとんど太宰に触れることがなかった。
 芥川一辺倒だったのだ。
 今から思うと、芥川一辺倒だからといって、太宰に触れない理由はない。
 きっと、太宰がなにやら辛気臭い割りにモテそうだったからであろう。


 あるいは、太宰メタルさんに激しい叱責を買う言い分かもしれない。

 でも載せちゃうのである。
 つまり
 『ボクは彼のように、女にもてない。でも、妙にふてぶてしいところがある』

                            - 了 -